更新日 2025年05月26日
治療する
【執筆】宇和川 匡(東京慈恵会医科大学腫瘍センター センター長)(令和7年5月)
目次
- がんサポーティブケアとは
- がんサポーティブケアを世の中に広く知ってもらうには
- がんサポーティブケアと緩和ケア
- がんサポーティブケアにおけるエビデンス
- 薬物療法に伴う悪心・嘔吐への対応
- 薬物療法に伴うしびれ(末梢神経障害)への対応
- がん悪液質対策として自分でできる運動療法
がんサポーティブケアとは
人はがんになると、手術による外科的治療、薬物療法(抗がん剤治療)、放射線治療、また、それらを組み合わせた治療を受けることになります。どの治療であっても身体には少なからずの負担になります。その負担は治療中だけで終わる場合もあれば、治療が終わってもずっとつきまとうものもあります。
生活の質に注意を払えるようになってくると、治療にも色々な変化が見られるようになりました。例えば、外科治療においては一昔前であれば、がんの根治を目指して、腫瘍を中心に可能な限り広く切除する拡大手術が日常的に行われていました。当然ながら、拡大手術を行うと合併症や後遺症が増えるのですが、当時はがんの根治を目指す代償として、それらは仕方がないことと考えられていました。それが今では、がんの根治性を保ちながら、小さな傷かつ身体の機能を温存する鏡視下手術やロボット手術が盛んに行われるようになりました。また疼痛管理の進歩もあり、術後の痛みは格段に緩和されるようになりました。
薬物療法においては、ほぼ全ての患者さんは様々な副作用に悩まされます。昔は、今のように副作用を和らげる薬が無かったために、患者さんは副作用をまともに受け、つらさに耐えながら治療をしていました。そういった状況の中で、治療に関連した副作用への対策の機運が当然高まり、がん自体による症状や治療に伴う副作用や合併症などを軽減するための予防、治療、ケアを意味する支持療法という用語が医療従事者の中で普及するようになりました。ちなみに「支持」を英訳するとサポート(support)になります。そして「療法」とは治療の方法を意味します。この支持療法という用語は、国の第3期がん対策推進基本計画の中で初めて使われるようになり、第4期がん対策推進基本計画の中でも継続して「支持療法の推進」として記載されています(図1、2)。
第3期がん対策推進基本計画では、「がん予防」、「がん医療の充実」、「がんとの共生」の3本柱を軸とした総合的ながん対策が推進され、第4期でも継続されています(図1、2)。そして、がんとの共生のための目標として、『全てのがん患者及び家族等の療養生活の質の向上を目指す』と記されています。がんサポーティブケアとは、支持療法とがんとの共生を合わせたもの、つまり、がんや治療に伴う副作用対策に加えて、がんと共に生きる上で生じる問題にも対応する、患者さんやご家族のトータルケアと考えられます。では、がんサポーティブケアとは具体的に何をサポートするのでしょうか。まず始めに、患者さんへのサポーティブケアについて具体例を提示しながら説明します。がん自体が原因で現れるものとしては、様々な身体的苦痛、不安や悩みといった精神的苦痛などがありますが、これらは全てサポートの対象となります。がん治療に伴う副作用もその対象です。薬物療法に伴う副作用としては、末梢神経障害(しびれ、感覚鈍麻、運動障害など)、悪心・嘔吐、皮膚や粘膜の障害、外見上の問題(脱毛、色素沈着、爪の変化など)などがあり、外科手術に伴うものとしては、術後の合併症・後遺症、放射線治療に伴うものとしては、皮膚障害・消化器症状などがあります。さらには、がんの診断時から治療中・後に関わってくる妊孕性(にんようせい:妊娠するための力で、女性にも男性にも関わってきます)の問題も含まれます。患者さんとご家族へのサポーティブケアには、就労や就学に関わる問題や経済的な問題のほか、ご家族の心理的・精神的な問題への対応なども含まれます。また、国や東京都などの公的機関が提供している利用可能な社会福祉的なサービスなどの情報を患者さんやご家族に届ける活動(がん相談支援センター、がんサロン、患者会など)もがんサポーティブケアに含まれます。
ちなみに、アピアランスケア(病気や治療に伴う外見状の問題に対するケア)や妊孕性へのサポートについては、東京都がんポータルサイト内で紹介していますので、ぜひそちらをご覧ください。
がんサポーティブケアを世の中に広く知ってもらうには
がん対策推進基本計画によって、がんサポーティブケアは推進されてきましたが、未だその認知度は社会だけでなく、医療従事者においてですら十分とは言えません。また、その実践度においては様々な格差(都会と地方といった地域間格差、がん治療を積極的に行っているところとそうでないところの病院間格差、がん治療に強い病院内におけるスタッフ間の関心度・習熟度の格差)が存在しているのが実情です。今やがんに関わる医療従事者は、がん患者さんの生存期間だけでなく生活の質についても配慮できる能力が要求される時代であることから、その育成は急務であり、全国的に様々な形で進められています。しかしながら、その育成には、まだまだ時間が必要です。
前に触れました支持療法という用語は、がん医療に関わる医療従事者の間ではサポーティブケアの意味として浸透し、当たり前の様に使われています。ところが世間一般的には、“しじ”という音で連想するのは指示(指し示す、指図する、命令するというイメージ)の方が圧倒的に多いのです。患者さんへの説明の際に、『しじ(支持)療法をうまく使いながら治療しましょう』と言っても、医療従事者の意図した支持=サポーティブという意味では理解されておらず、患者さんは頭の中では指示療法と変換し、『??』状態となってしまいます。しじ療法という用語を『しじ=支持=サポーティブ』として世の中に浸透させるには、まだまだ時間と労力が必要です。
一方でサポートという言葉だとどうでしょうか。その意味がイメージされやすいこともあり、子供から大人まで幅広い年齢層に広く浸透し、日常的に使われています。そこで、広く社会に支持療法とがんとの共生が普及・浸透することを期待して、ここではあえてイメージの湧きやすい『がんサポーティブケア』を使用します。
次に患者さんやご家族が、がんサポーティブケアを有効に利用するためにはどうすればよいか。それは、患者さんやご家族には、がん治療を受けるうえで受け身にならないということです。治療を受ける中でつらい状況(身体的、精神的のいずれであっても)にある場合は、患者さん側からそれを改善するための方法がないか、医療従事者に積極的に相談してみるということです。この項の前半で、がんサポーティブケアの認知度や実践度おいて様々な格差が存在しているということを書きましたが、もしあなたがいまかかっている医療機関や医療従事者が、がんサポーティブケアを積極的に取り入れていなかったら、つらさの改善のないままに治療が継続されてしまう可能性があります。『今のわたしにはどんなサポーティブケアがありますか?』あるいは『このつらさを緩和させるサポーティブケアはありますか?』といった質問ができれば、医療従事者は別の医療従事者に相談したり、ガイドライン等を参考にして、サポーティブケアを提供してくれるはずです。
がんサポーティブケアと緩和ケア
前項ではサポーティブケアという用語(言葉)の話題をとりあげましたが、ここではまた別の用語の話をしたいと思います。がんに関連した苦痛を和らげ取り除くという意味で緩和的(palliative)や支持的(supportive)という用語があります。がん治療において両者の由来は厳密には異なりますが、実際には非常に多くの類似点があります。いずれも患者さんやご家族を取り巻くさまざまな苦痛を解放し、生活の質を向上させるという点で共通しています。一方で用語からもたらされるイメージの誤解が、本来受けられるべきサポーティブケアを利用する上で障害となることがあります。
実は患者さんやご家族だけでなく医療従事者においても、緩和ケアという用語から受ける印象として、がんと戦う治療を諦める、あるいはがんと戦う治療が終わった後の終末期ケアと同義語である、といった誤解がいまだに存在しています。WHO(世界保健機関)の定義では、緩和ケアは、「生命を脅かす疾患による問題に直面する患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的、心理的、社会的な問題、さらにスピリチュアル(宗教的、哲学的なこころや精神、霊魂、魂)な問題を早期に発見し、的確な評価と処置を行うことによって、 苦痛を予防し和らげることで、QOL(人生の質、生活の質)を改善する行為である」としているように、必ずしも終末期に行うケアではありません。こうした誤解が、本来であれば苦痛を和らげるのに有効なサポートを利用する上で、ケアを提供する医療従事者だけでなく、受ける側の患者さんにとっても大きな障害となっているのです。そういう意味では、がんサポーティブケアの方が抵抗感が少ないかもしれません。
がんサポーティブケアにおけるエビデンス
医療においてよく使われる用語にエビデンス(科学的根拠と訳すことが多い)があります。医療の世界では、エビデンスのある治療が正しい治療(標準治療)として認められます。エビデンスの有無を検証するには、人を対象とした非常に厳格なルールに則った臨床研究が必要になります。
「がん=死」の時代から、エビデンスを求めた臨床研究が行われ、その積み重ねによって多くの治療方法が今日まで開発されてきましたが、エビデンスのある治療はその中のほんの一握りなのです。エビデンスをもつ治療の創出はとても難しく、だから貴重なのです。
エビデンスを持つ治療が一握りということは、裏を返せば世に存在する治療は、エビデンスを持たないものが多いということになります。ではエビデンスのない治療は一様に患者さんの役には立たないのでしょうか。答えはノーです。例えば、患者さんの数の少ない希少がん(人口10万人当たり6例未満の稀ながんと定義)に対する治療には、エビデンスのある治療がほとんどありません。なぜなら、エビデンスを求める研究には多くの患者さんに関わってもらう必要があるのですが、希少がんの場合は患者さんの数が少ないために研究の実施が難しいからです。また患者数の多いがんであっても、がんの種類によってはエビデンスのある治療が少ないものもあります。
ではエビデンスのある治療が無い、あるいは限られているがんに対する治療はどのように決めるのでしょうか。そういった時に役立つのが診療ガイドライン(以下、ガイドライン)です。日本医療機能評価機構が運営する『Mindsガイドラインライブラリ』では、ガイドラインとは、「様々な健康に関連した課題に対して、エビデンスなどに基づいて最適と考えられる治療法等を提示する文書のこと」と定義しています。そして、ガイドラインの中ではいろいろな治療が提示されており、それぞれの治療に対しての推奨(強いエビデンスがあり強く勧められる、限定的なエビデンスがあり勧められる、エビデンスはないが勧められる、エビデンスがなく勧められない、害を示すエビデンスがあり行わないよう勧められる、というような)が解説つきで記載されています。エビデンスのある治療=推奨される治療というのは正しいですが、エビデンスを持たない治療の中にもガイドラインに記載され、患者さんの役に立っているものも少なからず存在します。よって、全てのエビデンスのない治療が推奨されない治療(行うべきではない)ということではありません。
次に、がんサポーティブケアにおけるエビデンスの現状について話をしたいと思います。エビデンスのあるがん治療は、世の中にある治療の中の一握りだという話をしましたが、エビデンスのある治療のほとんどが、生存期間を伸ばすことを目的とした治療なのです。つまり、現時点でエビデンスのあるがんサポーティブケアはとても少ないということになります。ではなぜエビデンスのあるがんサポーティブケアが少ないのでしょうか。まず、がんサポーティブケアの歴史は、がん治療の歴史の中ではとても短いことから、当然その研究の歴史も浅いことが理由の一つです。またサポーティブケアの場合、生存期間の延長を目的とした研究と比べると、研究の立案が難しいということも関係します。サポーティブケアの研究の場合は、生存期間の評価が簡単ではありません。なぜならば生存期間の中には患者さんの感じるつらさが入ることがほとんどだからです。つらさの評価には客観的な指標を用いることができません。あくまで患者さんから発信される主観的な訴え(しびれ感、倦怠感、吐き気など)をもとに評価する必要があるからです。つらさの訴え方(症状の感じ方)は患者さんごとに異なりますし、表現の仕方も様々なので、評価するための指標を決めるのが難しいのです。例えば同じレベルの症状であっても、ある人が非常につらいと表現するものを、我慢する性格の人であれば、たいしたことないと表現する可能性もあるからです。吐き気やしびれといったつらさの症状は、採血やCT検査のように客観的に測定することができません。こういったこともサポーティブケアの研究が進みにくい理由になっています。しかしながら、この領域の社会的なニーズはとても高く、新たなエビデンスを求める研究は世界中で行われており、その数も年々増加傾向にあります。今後、新たなエビデンスのあるがんサポーティブケアが生まれてくることが期待されています。
ではエビデンス創出の過渡期にある現状では、エビデンスのあるサポーティブケアが少ないから、患者さんは治療に耐えないといけないのでしょうか。『エビデンスのない治療=推奨されない治療』と言う考えは誤りであるということはすでに書きました。やはりここでもガイドラインが役に立ちます。以前であれば世の中にはがんサポーティブケアに関するガイドラインはほとんどありませんでしたが、今では患者さんの直面するつらさに応じた様々なガイドラインが作成されています。
これから少し各論的な話になります。
薬物療法に伴う悪心・嘔吐への対応
がん薬物療法はがんに対する有効な治療法ではありますが、残念ながらがん細胞だけを選択的に攻撃してくれるものはなく、程度の差こそあれ正常な細胞に対しても影響を及ぼします。そして、そのほとんどは悪影響であるため、様々な副作用をもたらします。中でも悪心(吐き気)・嘔吐は薬物療法において高頻度に見られる副作用です。昔は治療のためと諦めて患者さんはそのつらさにひたすら耐えて、医療従事者側はそれをただ見守るだけでした。その後のサポーティブケア領域の研究の積み重ねにより、まず薬物療法に伴う悪心・嘔吐のメカニズムが明らかになってきました。メカニズム(治療のターゲット)さえ明らかになれば、今の医療科学技術をもってすればその治療薬はかなりの確率で開発されます。今ではエビデンスのある治療薬が複数開発され、日常の診療で使えるようになりました。さらに最近では、使う薬の種類や投与量から症状の強さをあらかじめ予測することができるようになりました。そのおかげで治療の内容に応じた副作用対策がパターン化され、患者さんのつらさをはじめから抑えることに成功しました。例えば、強い吐き気が予想される薬を使う際にはその予防を強化しようとか、この薬はほとんど吐き気がないから予防は軽めにしようというようにです。こういった副作用対策についてもガイドラインが存在し、医療従事者のサポートをしてくれています。「制吐薬適正使用ガイドライン(2023年10月改定第3版)4」では、薬物療法に伴う悪心・嘔吐の原因となる薬を4つ(高度催吐性リスク抗がん薬、中等度催吐性リスク抗がん薬、軽度催吐性リスク抗がん薬、最小度催吐性リスク抗がん薬)のグループに分けて、その程度に応じた制吐療法を提案しています。ほとんどの場合は、このような予防策で患者さんのつらさに対応できるのですが、中にはそれでもつらさを訴える患者さんはいます。そういった時は、『このつらさを緩和させるサポーティブケアは他にありますか?』と担当医とコミュニケーションをとってください。新たな対応策が見つかるかもしれません。
薬物療法に伴うしびれ(末梢神経障害)への対応
しびれの症状は様々で、感覚異常(ピリピリ感、チクチク感、ジンジン感)、知覚鈍麻(手足での感じ方が鈍くなってしまう)、運動麻痺(力が入りにくい)、またそれらが混在するものもあります。正座などの際にみられるしびれは、一過性で時間が経つと回復しますが、一時的であってもその不快感は耐え難いものです。
がん薬物療法の副作用の一つにもしびれがあります。薬剤の添付文書によれば、発症頻度や程度の差こそあれ、非常に多くの薬がしびれの原因となることがわかっています。また、薬物療法に伴うしびれの場合は長期的に悩まされることが多く、生活の質に直結することからその対策はとても重要です。
薬物療法に伴うしびれのメカニズムについて、少し詳しく説明します。薬物療法に伴うしびれは、薬によって末梢神経が障害されることで起きます。末梢神経とは、中枢神経である脳や脊髄から枝分かれして、手や足の先に達する線状に長く伸びた神経で、神経細胞体・軸索・髄鞘で構成されています(図3)。中でも軸索はとても長いことから最も障害されやすい部位です。末梢神経には、感じたもの(痛み・触覚などの感覚)を脳に伝える感覚神経、手足を動かすための運動神経、内臓などの自分の意識とは無関係な働きを調整する自律神経が含まれています。したがって、末梢神経の障害される神経の種類(運動神経・感覚神経・自律神経)によって現れる症状は様々です。また、それぞれの神経が単独で障害されることは稀なので、複数の神経障害が重なって症状が出ることがほとんどです。感覚神経が障害されると、正座した時のようなしびれ、チクチク感、ヒリヒリ感、痛み、刺激に対する感覚が鈍る感じ(感覚鈍麻)といった症状が出ます。特に手足の先端部に現れることが多いですが、全身に電気が走るような痛みや腰痛を認めることもあります。薬物療法に伴うしびれの場合、運動神経障害が単独で現れることはほとんどなく、感覚障害に加えて出現することが多いですが、頻度としては感覚神経障害よりは少ないです。運動神経が障害されると、体幹から離れた手足の筋肉の萎縮と筋力の低下、筋肉の緊張が低下(筋肉が緩む)を認めることから、歩行やバランスがとりにくくなり転倒の危険性が増加します。自律神経障害が起きると、血圧の変動、消化管運動の障害による便秘や腸の動き止まった状(麻痺性イレウス)、排尿障害、発汗異常、起立性低血圧など、自分の意思では調節できないところの障害を認めます。発生頻度は運動障害よりもさらに少ないと言われています。
薬物療法に伴うしびれは、原因となる薬の総投与量・治療期間が影響することがわかっていますので、複数のサイクルで行う治療の場合は、サイクル数が増えるほど症状の出現頻度は高くなり、症状は悪化しやすくなります。最近では、末梢神経障害を起こしやすい薬剤の特徴が明らかになり(表1)、前もって患者さんに副作用等の注意事項の説明ができるようになりました。
薬剤によるしびれは、残念ながら現時点ではエビデンスのある予防法はありませんが、ガイドラインの中では、いくつかの予防法を提案(実施することを否定しないという形での記載も含まれます)されています。例えば、多くの疾患に対して使われているタキサン系薬剤は、しびれの原因薬剤の代表的なものです。ガイドラインでは、タキサン系薬剤によるしびれ予防として、冷却療法や圧迫療法が記載されています。冷却療法は、薬剤投与中にしびれの起きやすい手足の末端部を冷却することで末梢部の血流を減少させて、薬剤を末梢部に到達しにくくすることで末梢神経への直接的な障害を抑制します。圧迫療法は手足の末梢部を圧迫することで行います。冷却療法とは方法が異なりますが、薬剤投与時に末梢の血流を減らすという意味では同じメカニズムです。具体的には、ややきつめの弾性圧迫グローブ・ストッキングを用いることが多いです。運動療法も予防法としてガイドラインに記載されています。活動的な生活習慣の維持することを通じて、しびれによる活動性の低下予防、歩行困難感に対するストレッチやバランストレーニングによる転倒予防などが主な目的です。
ではしびれに対する治療方法はあるのでしょうか。残念ながら治療についてもエビデンスレベルの高いものはありません。デュロキセチンという薬がエビデンスのある治療として海外から報告されて以降、新たなエビデンスのある治療薬は出ていません。現状、エビデンスのある解決法はほとんどありませんが、ガイドラインを参考にしながら、利益と不利益のバランスを個々の患者さんごとに評価した上で様々な対応を検討することは、意味のあることです。今世界では、この領域の臨床研究が盛んに行われており、新たなエビデンスのある治療の誕生が期待されています。
がん悪液質対策として自分でできる運動療法
がん研究の進歩により色々なことが明らかになってきました。その一つにがん悪液質があります。がん悪液質とは、がん細胞によって産生される様々な物質(サイトカインというタンパク質)が原因で生じる体重減少や食欲低下、これに伴う低栄養や筋肉量の減少(サルコペニア)による全身の衰弱した状態を意味し、診断基準を基に診断されます。がん悪液質は進行がんの患者さん、中でも肺がんや消化器癌がん(膵臓がん、食道がん、胃がん、大腸がん)の患者さんに認められることが多く、治療効果の減弱、副作用の増悪、生存期間の短縮といったマイナス面での影響があることが明らかになっています。このため、がん悪液質を予防することはとても重要です。がん悪液質はある日突然発症するのではなく、3つの段階を経て進行すると考えられています(表2)。前悪液質(悪液質になる前の段階)あるいは悪液質の段階で診断し、早期に適切な治療(栄養療法、運動療法、心理療法、薬物療法など)が行われると、がん悪液質の進行を抑えたり、更にはがん悪液質の状態から脱することがあります。ここでは、自分でできるがん悪液質対策としての運動療法について解説します。
運動療法の良い点としては、身体機能が高まるだけでなく、動いた時のエネルギー消費や疲労感を減らし、気分転換や精神的苦痛を軽減する効果もあることから、日々の生活を快適にする手助けとなります。また、運動療法はなるべく早期から(がんと診断された時、治療が始まる前後)開始することが効果的で、1週間あたり150分以上の中等度の有酸素運動や、週に2~3回程度の上下半身の大きな筋肉を使った筋力トレーニングとストレッチを定期的に行うことが効果的と考えられています。中等度の有酸素運動としては、早足での歩行やエアロバイクなどがあります。筋力トレーニングとしては、自分の体重を負荷にして行う自重トレーニングである腕立て伏せやスクワットのほか、ダンベルやゴムバンドを用いる方法があり、大胸筋、広背筋、大腿四頭筋といった大きな筋肉を使うようにします。運動の強度としては、初めは少し物足りない程度から開始し、最終的には軽度のきつさを感じるくらいが目安になります。運動療法は継続して行うことが重要ですので、身体と相談しながら無理のない程度に自分のペースで行いましょう。
そしてがん悪液質予防としてもう一つ大事なことは、適正な栄養補給です。筋肉を作るには運動だけでは不十分で、同時に適切な栄養が必要となります。どんなに良いエンジンを積んだ車でも、ガソリンがないと動きません。そして質の良いガソリンの方が、車はより快適に走ります。患者さんにとって質の良い栄養は、個々の病気の種類や状態によって様々ですので、がん病態栄養専門管理栄養士に相談すると、病気の状態に適した良いアドバイスがもらえます。がん病態栄養専門管理栄養士は、あなたが治療で通っている病院にもいるはずですので、ぜひ相談してみてください。
がん患者さんのための運動療法やがんリハビリテーションに関する情報は以下からも得ることができますので、ぜひご活用ください。
- がん情報サービス がんとリハビリテーション医療ホームページ
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/rehabilitation/index.html
- がん情報サービス がんとリハビリテーション医療 冊子
https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/208.pdf
- 慶應義塾大学病院 医療・健康サイト KOMPAS
悪性腫瘍(がん)のリハビリテーション
https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000145/
- 患者さんのためのがんリハビリテーション診療Q&A
監修:日本リハビリテーション学会
編集:日本がんサポーティブケア学会
出版社 金原出版
追記
東京都には多くのがん診療連携拠点病院があり、そこにはがん相談支援センターが設置されていて、がんに関わる様々な問題に対して、どの様なサポーティブケアがあるのかといった相談に、電話や面談により無料で対応してくれます。また匿名での相談も可能です。何かお困りの際は、がん相談支援センターにお問い合わせ下さい。
- 東京都がん相談支援センターに関する情報は、以下からご参照いただけます。
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/gan_portal/soudan/center
図1

図2

図3
表1
表2
1. Fadul N, ほか. Cancer. 2009;115:2013-21.
2. Dalal S, ほか. The Oncologist 2011;16:105-11.
3. Maciasz RM, ほか. Support Care Cancer. 2013;21:3411-9.
4. 日本癌治療学会作成『制吐薬適正使用ガイドライン』2023年10月改定 第3版URL: http://www.jsco-cpg.jp/antiemetic-therapy/
5. Cavaletti G, ほか. Curr Treat Oponions Neurol. 2011;13:180-90.
1. がん対策推進基本計画(平成30年3月)
2. Fadul N, et al. Cancer. 2009;115:2013-21.
3. Dalal S, et al. The Oncologist . 2011;16:105-11.