がんの治療と生殖機能(妊よう性)の温存についてのQ&A

更新日 2025年03月13日

治療する

執筆 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院  乳腺内分泌外科 中山 可南子 先生
監修 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院  乳腺腫瘍内科  清水 千佳子 先生

  • A
    男性の場合、自分自身ではなく、実際に妊娠・出産するのが、パートナーである点が大きく異なります。手術によって勃起射精障害が起きる可能性がある場合には、神経温存手術が可能かどうか、尋ねてみましょう。

    抗がん剤や放射線治療によって精巣機能の低下が予想される場合、思春期以降の男性では射出精子を凍結保存することによる妊孕性温存の技術が古くから確立しています。思春期前の子供の精巣は未熟で、妊孕性温存の技術は確立していません。

    化学療法や放射線療法、手術によって精巣機能の低下が予想される場合には、できるだけ治療開始前に精子を採取することが望ましいとされています。精子の数が著しく少ない場合や両側精巣腫瘍の場合などは、精巣内精子採取術(Onco-TESE)を行うことで、精子を採取できる可能性がありますが、実施可能な医療機関は限られています。
  • A
    まずは、がん治療を行っている担当医に相談してください。がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターも相談窓口として活用できます。いずれにしても、がん治療の担当医と生殖医療専門医が、がんの状態、抗がん剤治療の内容・スケジュール、生殖機能や妊孕性温存の方法など、患者の情報を共有し、お互いの治療に関して連絡を取り合うことが重要です。
  • A
    がん診療施設と十分な連携をとることができる生殖補助医療(ART)の施設が推奨されます。日本産科婦人科学会では、生殖補助医療施設基準を定め、学会に登録している施設で妊孕性温存を受けることを勧めています。登録施設については、日本産科婦人科学会のホームページや、日本がん・生殖医療学会のホームページから確認できます。

     日本産科婦人科学会ホームページ

     日本がん・生殖医療学会ホームページ
  • A
    女性の妊孕性温存療法は、パートナーがいる場合は、胚(受精卵)凍結保存、パートナーがいない場合には、未授精卵子凍結保存が推奨されています。
  • A
    がん治療の進歩により、がんの治療成績が改善するにつれ、治療後の生活の質を向上することの重要性が認識されるようになってきました。がん治療として行う、手術や薬物療法、放射線治療などにより、妊孕性の機能が低下してしまい、治療後に子供を授かることが難しくなる場合があります。

    近年、不妊治療の技術を応用して、治療後の妊娠・出産の機能を治療前に残す「妊孕性温存」という方法が普及してきました。妊孕性温存治療とは、がん治療の前に、卵子や精子、受精卵、卵巣凍結を行い、がん治療後にこれらを用いて妊娠・出産を目指す治療法です。
  • A
    妊孕性とは、「妊娠するための力」のことををいいます。妊娠するためには、卵子と精子だけでなく、性機能や生殖器、内分泌の働きも重要です。妊孕性は女性・男性両方に関わることです。
  • A
    小児、思春期・若年がん患者など、「生殖年齢」でがん治療を開始する患者が対象となります。また、妊孕性温存にあたっては、がんの状態も考慮する必要があります。がんの種類、進行のスピード、患者の全身状態によっては、妊孕性温存治療に時間をかけることが治療計画に大きな影響を及ぼす、あるいは命に重篤な危険をもたらしてしまう可能性があることから、妊孕性温存が勧められないこともあります。

    国内では、日本癌治療学会の「小児、思春期、若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン」によって、各臓器での妊孕性温存の適用が示されていますが、原則として遠隔転移を伴う進行・再発がんの患者は妊孕性温存の適応にはなりません。また、遠隔転移がなくても、再発リスクが高い場合や標準治療の内容によっては、妊孕性温存が勧められない場合があります。

    がんの治療は、がんの種類やステージによって異なり、がん患者の妊孕性への影響も、それぞれの人のもともとの妊孕性やがんの治療内容によって異なるため、がんと診断されても、将来、子供を持ちたいと考える全ての人に妊孕性温存が必要なわけではありません。将来、パートナーとの間に子供を持ちたいという考えを担当医に伝え、がん治療の見通しと共に、妊孕性温存を検討した方がよいかどうかを確認しましょう。