成人した小児がん経験者の長期的な健康を支えるために

更新日 2026年05月29日

目次

小児がんと晩期合併症について

医療の進歩によって、小児がんは治ることが多くなり、成年を迎える小児がん経験者が増えています。一方で、成長の途中で受けたがん治療の影響が、成人してから健康に影響を与えることがあります。これを「晩期合併症」と呼びます。

「晩期合併症」の内容は人によって様々ですが、たとえば次のようなものがあります。

•  ホルモンの分泌低下、不妊
•  心臓や腎臓の機能低下
•  骨や歯のトラブル
•  高次機能の問題(物忘れが多い、集中しづらい、段取りが苦手など)
•  がんの再発や、新しいがん(二次がん)の発症

どのような影響が出やすいかは、がんの種類、治療内容、治療を受けた年齢などによって異なり、人それぞれで異なります。

小児医療と成人医療の違い

小児医療では、小児科医が中心となり、家族と一緒に治療を進めます。また、がん治療中から多職種のサポートが受けられ、治療後も長期フォローアップ外来で健康管理を続ける仕組みがあります。

一方で、成人医療は次のような特徴があります。

•  診療科が臓器や専門性によって細かく分かれている
•  治療方針は本人の同意が必要
•  20歳を過ぎると医療費の自己負担が発生
•  本人が希望しない限り、多職種の支援にはつながりにくい

このような違いから、小児がん経験者が成人診療科を受診するときに戸惑うことが多いと言われています。また、成人診療科の医師の多くは、小児がん経験者の診療に慣れていません。

都内の成人がん治療施設での移行期医療の取り組み

東京都がん診療連携協議会では、都内の成人がん治療施設60施設に対して、「成人した小児がん経験者の診療や成人移行に関するアンケート」を行いました。

•  60施設すべてから回答がありました
•  そのうち28施設が、18歳以上の小児がん経験者の診療を行っていると回答しました

成人医療の現場でも、小児がん経験者を診ている施設が一定数あることが分かりました。

都内施設へのインタビュー調査

さらに、各施設がどのように診療を行っているか、どんな工夫や課題があるか、国の研究班*と協力し、実際に小児がん経験者の診療を行っている都内の医療機関にインタビューを行いました。このインタビュー調査には、アンケートで「小児がん経験者の診療している」と回答した28施設のうち13施設が協力しました。

*厚生労働科学研究費補助金 がん対策推進総合研究事業「小児・AYA 世代のがん経験者の健康アウトカムの改善および根治困難ながんと診断された AYA 世代の患者・家族の生活の質の向上に資する研究」班(研究代表者 国立健康危機管理研究機構国立国際医療センター 清水千佳子) (研究班ホームページ

成人診療科の状況

成人診療科で小児がん経験者を診る体制について、病院全体として仕組みを整えている施設は極めて少なく、多くの病院では各診療科が工夫しながら対応しています。診療は次のような形で行われていました。

•  結婚・妊娠・就職などのライフイベントをきっかけとした受診
•  限られた情報の中での診療(小児期の治療情報が十分に届かないことが多い)
•  必要に応じた専門診療科との連携

こうした状況から、以下の課題が明らかになりました。

•  患者も医療者もどこに相談すればよいか分かりにくい
•  小児期の情報が不足しており、情報が統合されていない
•  複数の診療科の調整を担う医療者の負担が大きい
•  経済的支援に関する情報や制度が十分に届かない
•  移行期医療としてのプログラムが整っていない

小児科での成人小児がん経験者診療の状況

一方、小児科では、成人になっても小児科が「総合的な相談窓口」として関わり続ける形も多く見られました。小児科が定期的にフォローし、治療が必要になった場合に成人診療科へ紹介するというモデルです。

ここでも次のような課題がありました。

•  成人診療科の受け入れ先を確保することが難しい
•  地域の医療機関との役割分担がはっきりしない
•  妊孕性(にんようせい:妊娠に関すること)や就労など、成人期に必要な支援との連携が不十分

両者に共通する課題

成人診療科・小児科のどちらにも共通していたのは、

•  小児期の治療情報が十分に共有されていないこと
•  特定の医療者の努力に依存した体制になっていること

という点でした。

小児がん経験者の円滑な成人医療移行のために~今後の取り組み

東京都がん診療連携協議会では、成人した小児がん経験者が安心して医療を受け続けられるようにするためには、次のような課題について議論を深めました。

1. 小児から成人への移行期医療の集約化のあり方

現在、小児がん経験者への対応は病院ごとに異なり、小児科から成人診療科へ移る「移行期医療」を受けられる場所は限られています。病院だけでなく、地域の医療機関や支援機関とどう役割分担し、患者さんが途切れずに支援を受けられる仕組みをつくるかも重要です。国のがん対策推進協議会では、このように治療の影響が長く続く可能性が高い"高リスク"のがん経験者については、都道府県ごとに専門的なフォローアップ体制を集約する必要があるという方向性が議論されています(図1、2)。東京都でも、このような国の動きも踏まえ、都内の小児がん経験者の受け入れ施設を集約し、地域医療と連携する体制を構築する方向で議論が進められています。

2. すでに取り組みを進めている診療科・施設への支援

丁寧な移行期医療を行うためには、成人医療に移行するタイミングで、小児期に関わった医療者やご本人・ご家族から、小児期からの健康や医療に関する情報を集め、適切な成人医療につなぐことが必要です。インタビュー調査を行った取り組みのある施設の医療者からは、少ない医療者の個人的な努力が移行期医療を支えていることが分かりました。先行して努力している医療者や施設が、負担を抱えたまま孤立しないように、

•  医療情報の共有の仕方
•  困難を感じたときの相談体制
•  財政的・人的支援

などをどう組み立てていくかを整備していく必要があります。

3. 質の保証と持続可能な体制、人材育成

小児がん経験者の長期的管理を支える医療を長く続けるためには、

•  診療の質をどう担保するか
•  専門知識を持つ医療者をどう育てるか
•  体制をどう維持するか

といった視点が欠かせません。

また東京都がん診療連携協議会では、健康管理に関わる当事者の経済的負担についても話題となり、保険医療のシステムとの整合性のある方法で、経済的負担の軽減を施策として実現していくためには科学的な根拠が必要であり、研究を推進していくことが必要であるとの議論がなされました。

東京都は、全国から多くの若者が集まり、また都外へ移っていく人も多いという特徴があります。都外で生活していて、がんの専門的な治療を受けるためだけに都内の医療機関を受診する人もいるでしょう。こうした東京都ならではの状況を踏まえ、小児がんを経験した方が、どこに住んでいても安心して、分かりやすく長期的な健康管理を受けられる仕組みを作るにはどうしたらよいかを考える必要があります。

東京都がん診療連携協議会では、東京都と協力しながら、成人した小児がん経験者の長期的な健康を支える医療体制を構築していく予定です。

図1

2 0 4 0 年を見据えたがん医療の均てん化・集約化に係る基本的な考え方に基づいた医療行為例の画像

図2

2040年を見据えた都道府県がん診療連携協議会を活用した均てん化・集約化の検討の進め方についての画像

厚生労働省 第92回がん対策推進協議会 資料1-1より引用